LOMO SMENA 8M

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SMENA 8Mを理解するためには、後年のロモグラフィーによって広まった「トイカメラ」というイメージだけでなく、ソ連における写真文化の大衆化と、初心者向けカメラのあり方という流れの中に位置づける必要がある。「SMENA」はロシア語で「交代」や「世代交代」を意味する言葉である。その名称が示すように、SMENAシリーズは若い世代や一般家庭に写真を普及させるための、大衆向けカメラとして開発された。

SMENA 8Mは、1963年に登場したSMENA 8を基礎として、1970年に外装や操作表示を変更したモデルである。基本的な機構はSMENA 8からほとんど変わっておらず、その後1995年頃まで長期間にわたって製造された。SMENA 8とSMENA 8Mを合わせた生産台数は2,100万台を超えるとされ、35mmカメラとしては例外的な規模で普及した。

しかしSMENA 8Mは、初心者向けだからといって、単にシャッターを押せば写るカメラではない。

露出計は搭載されていない。オートフォーカスも自動露出もなく、ピント、絞り、シャッタースピードを撮影者が決める必要がある。フィルムの巻き上げとシャッターチャージも連動していない。

後年のロモグラフィーでは、偶然性や予測できない描写を楽しむカメラとして紹介されることが多い。しかし、本来のSMENA 8Mは、偶然に任せて撮るためのカメラではなかったように思う。

むしろ写真の基本を理解し、自分で露出と距離を決めるための、簡素な写真教育機と考える方が実態に近い。SMENA 8Mは35mmフィルムを使用する24×36mm判の固定レンズ機である。レンズはT-43 40mm F4。絞りはF4〜F16、シャッタースピードはB・1/15・1/30・1/60・1/125・1/250秒を備える。ピントは目測式で、撮影距離は1mから無限遠まで対応する。

スペックだけを見ると極めて簡素である。しかし、絞りとシャッタースピードを独立して設定でき、距離目盛と被写界深度目盛も備えている。低価格な普及機でありながら、写真を撮るために必要な機能は一通り揃っている。

■ 外観と操作系

SMENA 8Mの外観は、角張ったプラスチックボディと、前方へ大きく突き出したレンズ部分から構成されている。正面から見ると玩具のようにも見えるが、レンズ周辺にはフォーカス、絞り、シャッタースピード、フィルム感度、被写界深度目盛が密集している。見た目の単純さに対して、操作すべき箇所は意外に多い。

露出の設定には二つの方法が用意されている。一つは、通常の絞り値とシャッタースピードの数値を使う方法である。露出計などで測定した値を、そのままレンズ周辺の目盛に設定する。

もう一つは、フィルム感度と天候マークを組み合わせる方法である。使用するフィルムの感度を設定したうえで、晴天、薄曇り、曇天などを示す記号を選ぶと、対応する絞りとシャッタースピードが設定される。露出計を持たない初心者でも、屋外でおおよその露出を決められるように考えられた仕組みである。

この天候マークのため、SMENA 8Mは簡単なカメラに見える。しかし記号はあくまで露出決定を補助するものであり、カメラそのものが自動的に露出を制御するわけではない。

撮影者は天候を判断し、距離を推測し、ピントを合わせ、シャッターをチャージしてからシャッターを切る必要がある。

SMENA 8Mで特徴的なのは、フィルム巻き上げとシャッターチャージが完全に独立している点である。

巻き上げても自動的にシャッターはチャージされない。反対に、フィルムを巻き上げずにシャッターを再チャージすることもできる。そのため、チャージを忘れれば何も写らず、巻き上げを忘れれば二重露光になる。

これは操作ミスを防ぐという意味では不親切である。一方で、機構が単純であるため、撮影者がカメラ内部の動作を理解しやすい。多重露光も特別な機能ではなく、巻き上げとシャッターが連動していないことから自然に可能となっている。

■ ファインダーと目測撮影

ファインダーは構図を確認するためだけの単純な透視式で、距離計は組み込まれていない。ピントは被写体までの距離を目測し、レンズの距離目盛に設定する。

40mmという焦点距離は、一般的な50mm標準レンズよりやや広く、街中でのスナップには使いやすい。F8やF11まで絞れば被写界深度も広くなるため、厳密な距離測定をしなくても、ある程度安定した撮影が可能になる。

一方、近距離や開放付近では目測の誤差がそのままピントに現れる。ファインダーも撮影レンズとは別の位置にあるため、近距離ではパララックスにも注意が必要である。

シャッターボタンは比較的重く、軽いプラスチックボディとの組み合わせでは手ブレを起こしやすい。特に1/30秒以下では、ボタンを下方向へ押し込むのではなく、カメラ全体を両手で保持しながら慎重に操作する必要がある。

■ レンズ:T-43 40mm F4

小型軽量であることは携帯性には有利だが、撮影時の安定性という点では必ずしも有利ではない。搭載されるT-43 40mm F4は、3群3枚構成のトリプレット型レンズである。

ボディの簡素さから、SMENA 8M全体をプラスチックレンズのトイカメラと誤解しやすいが、T-43はコーティングされたガラスレンズである。取扱説明書にも、コーティングされた3枚構成のアナスチグマートとして記載されている。構成自体はPET 35のFUJINAR-K 45mm F3.5と同じトリプレット型だが、実際の描写には違いがある。

今回の作例では、画面中央部には想像以上に明瞭な解像感があり、建物の線や列車の細部も十分に描写されている。一方、画面周辺ではやや像が緩み、光の条件によってはコントラストが低下する。

PET 35のFUJINAR-Kが、階調の滑らかさや柔らかな空気感を特徴とするのに対し、T-43は輪郭と色が比較的はっきり出る。特に順光でF8前後まで絞った場合、プラスチックボディの普及機から想像する以上に端正な描写を見せる。

反対に、開放付近や逆光ではフレアや周辺部の甘さが現れやすい。描写は常に均一ではないが、それは意図的に作られた特殊効果ではなく、簡素なトリプレットレンズと鏡筒構造による性格と考えるべきだろう。

SMENA 8Mは、精密さや操作の洗練を追求したカメラではない。しかし、低価格なプラスチックボディの中に、ガラス製のトリプレットレンズ、絞り、複数のシャッタースピード、目測フォーカスを備え、写真撮影の基本操作をすべて撮影者に残している。

現在ではトイカメラとして扱われることも多いが、その設計を詳しく見ると、これは写真を偶然に委ねるカメラではない。

写真の仕組みを簡略化するのではなく、簡素な機構によって写真の仕組みを学ばせるカメラである。

SMENA 8Mがソ連で長期間にわたり大量に生産された理由も、単に安価だったからではなく、この割り切った設計にあったのではないだろうか。

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